ダムの基礎知識


ダムの魅力を感じるのに余計な知識は必要ないかも知れません。しかし、写真で見たり、実際に現地に出かけたとき、多少の基礎知識を持っているだけでダムから受け取れる情報は何倍にも増し、より深くダムを理解(この場合、社会的役割ではなく構造的見地という意味で)することができるようになります。なぜその場所に建設されたのか、なぜその形なのか、どのような用途なのか。また高さ、長さはもちろん、どのくらい水を溜められるのか、使われたコンクリートの量は?など、様々な要素が絡み合ってひとつのダムは形成されています。そして、これだけたくさん存在していながら、まったく同じ顔を持つダムはありません。少しでも興味を持たれた方ならば、ダムによって好みも出てくるでしょう。データや基礎知識を駆使して、それぞれのダムの個性を分析するのも楽しいと思います。
というわけで、覚えといて損はないダムの基礎知識です。文献やネット上の情報をなるべく分かりやすく噛み砕いて解説するつもりですが、私も専門家ではないので間違った解釈、記憶違いなどがきっとあると思います。もし専門家の方がご覧になりましたら、ぜひぜひ添削してくださるようお願いします。


1. ダムとは

河川法によると、川をせき止めて水などを貯める施設のうち、堰堤の基礎地盤から堤頂までの高さが15m以上のものを総称して「ダム」と呼びます(それ未満のものは「堰」)。また、もともと川でない場所でも、人工的に堰堤を造って貯水している場合はダムと呼んでいるようです。
ひとくちにダムと言っても、その用途や種類は様々です。水を貯めるダム(貯水ダム)ばかりでなく、山間部からの土砂の流出を防ぐための「砂防ダム(貯砂ダム)」などもあります。このサイトでは主に貯水ダムを掲載していますが、ダム湖の最上流にダム湖への土砂の流入を抑えるための副ダムとして砂防ダムをよく見かけます。また小さなものは数え切れないほど存在し、山道沿いの小川や渓谷などでよく目にします。砂防ダムについても、興味があるので大規模なものはいずれ取材したいと思います。


2. ダムの用途

貯水ダムの用途は主に洪水の調節、正常な流量の維持、生活用水の確保、発電などがあり、その中で複数の用途を持つダムを「多目的ダム」、ひとつの目的のために造られたダムを「専用ダム」と区別しています。
洪水の調節とは、大雨が降ってもある程度の水をダムに貯めることで下流の洪水被害を低減させることです。洪水期(だいたい6月〜10月)の間はダムの貯水量を少なめに設定し、大雨に備えます。逆に渇水期(同じく11月〜5月)はダムに貯めた水を少しずつ放流し、水不足が起こらないようにします。
正常な流量の維持とは、雨が降らない日が続いてもダムの水を放流することによって下流の水量を保ち、生物への影響や水質の悪化などを防ぐことを言います。
生活用水の確保とは、上水道や工業、農業用水を年間を通して安定供給できるようにすることです。
発電は水力発電で、ダムの落差を利用して水の勢いで発電用タービンを回します。原子力や火力に比べて発電量は小さいですが、クリーンエネルギーとして最近再び注目されています。


3. ダムの種類、構造

さて、いよいよこの項のメイン、ダムの種類やその構造についての解説です。
ダムの種類は使われている材料により大きく2つに分類されます。コンクリートで造られたダムを「コンクリートダム」、土や岩を積み上げて造られたダムを「フィルダム」と呼びます。またそれぞれのダムの中でも、基礎地盤の強さや地形、規模などによりいくつかの種類が存在します。


◆ コンクリートダム


・重力式コンクリートダム

重力式コンクリートダムは、水を貯めた際の水圧を堤体の重さによって支える構造です。つまり、重い食器棚を動かそうと押してもビクともしない、というのと同じレベルの理論です。下図のように縦に斬った断面は三角形で、構造が単純なので大きなダムも造ることができます。基礎地盤もある程度の強度があれば大丈夫です。ただし使用するコンクリートの量が多く、工事の期間も長い(約10〜20年)というデメリットもあります。日本で一番多いのはこの形式のダムです。


重力式コンクリートダムの図解
重力式コンクリートダム
浦山ダム(埼玉県/浦山川)


・中空重力式コンクリートダム

中空重力式コンクリートダムは、重力式コンクリートダムと同様に堤体の重さで水圧を支えるものですが、堤体内部を空洞にすることによってコンクリートの量を節約しています。しかし水圧の限界は重力式コンクリートダムより低いので、あまり大規模なダムには向きません。セメントの値段が人件費より高かった昭和40年代までは多く造られましたが、近年ではセメントの価格が暴落し、複雑な構造で人件費がかかるため採用されることはなくなりました。縦断面は二等辺三角形が基本です。


・バットレス式ダム

バットレス式ダムは、鉄筋コンクリート製の板で水圧を受け、その板をバットレスと呼ばれるコンクリートの擁壁と柱で支える方式です。これもコンクリートを節約できますが、耐えられる水圧には限界があります。また、普通のダムと比較して構造が複雑で頻繁なメンテナンスが必要なため、日本では昭和初期までに小数造られ、現存しているのは6基だけだそうです。


・アーチ式コンクリートダム

アーチ式コンクリートダムは、水圧を両岸と底部の岩盤で支える構造で、水平に斬った断面は円弧や放物線を描いています。下図はアーチ式コンクリートダムを上から見たもので、堤体はピンポン玉を4等分したものと想像してください。堤体が水圧を受けると、その力は堤体を伝って両岸の岩盤および底部の基礎地盤に吸収されます。このような構造にすることによって堤体を薄くすることができ、コンクリート量は大幅に削減できます。ただし建設は基礎地盤が強固な峡谷に限られます。工事の期間はだいたい10年前後のようです。


アーチ式コンクリートダムの図解 アーチ式コンクリートダム
矢木沢ダム(群馬県/利根川)


◆ フィルダム


・ゾーン型ロックフィルダム

ゾーン型ロックフィルダムは、岩と粘土質の土を積み上げて造られたダムで、コアゾーンと呼ばれる土の壁で遮水し、それをロックゾーンと呼ばれる岩の山で支える構造です。中央土質遮水壁型ロックフィルダム、センターコア型ロックフィルダムとも呼ばれます。基礎地盤の面積が広いために単位面積あたりの加重が小さくなり、基礎地盤の強度が弱いところに適しています。ただし強度的な問題で、洪水調節容量を大きくしたり洪水吐を堤体の上に載せることができないなど、設計上大きな制約があります。工期は短いものでは数年で完成するものもあります。


ゾーン型ロックフィルダムの図解
ゾーン型ロックフィルダム
奈良俣ダム(群馬県/楢俣川)


・表面遮水型ロックフィルダム

表面遮水型ロックフィルダムは、コンクリートやアスファルトにより堤体表面で遮水する方式です。遮水部分が表面にあるので、施工やメンテナンスが容易にできるという利点があります。


・アースダム

アースダム(アースフィルダム)は、等質の材料(主に土)を積み上げて造られたダムです。構造が簡単なため施工しやすく安価ですが、大規模なダムには適しません。


以上が日本に存在する主なダムの形式です。この他にも、珍しいものでは特殊な合成ゴム引布でできたチューブを空気でふくらませたものをゲートととして水をせき止める「ラバーダム」というものもありますが、堤高が15mを超えるものがなく、残念ながら「堰」止まりとなっています。また、地形によっては重力式コンクリートダムにロックフィルダムを組み合わせた複合ダムや、アーチ式コンクリートダムを複数つなげた「マルチブルアーチダム」というのも存在します。
ちなみに、アースダムのところで「大規模なダムには適しません」とありますが、なぜか堤高世界一のダムはロシアのアースダムで、その高さは300mもあります。堤高日本一のダムは有名な黒部ダムで、186mのアーチ式コンクリートダムです。


2001/02/09 Ver. 1.1