はじめてのダムめぐり


ダムを見たいけど見にいったことがない、どこにあるのか分からない、どうやって探したらいいか分からないなど、「ダムめぐり」をはじめたいけどはじめられない人のために、まず「ダムめぐり」とは何か、そしてその楽しさ、また簡単にできるダムめぐりの方法(ダムの見つけかた)を解説しようと思います。基本的には自分の経験をもとにしたり、事実に基づいた内容がほとんどですが、話の進行上、未確認の情報や創作された部分も紛れ込んでいます。そのあたりは寛容に受け止めていただければありがたいです。
注:この文章は2004年5月に行なわれた「ダムツアー」の際に参加者にお渡ししたレジュメを加筆修正したものです。


1.ダムめぐりとは

「ダムめぐり」という言葉は、ダム好きの人々がいつの間にか勝手に使い出したものだと思います。その言葉の通り、いくつかのダムを見ることを目的とした小旅行のことを言います。ほとんどは日帰りですが、数日かけて各地をまわるような場合もあります。また、人によってはご当地のグルメや温泉などをオプションにつけて楽しむこともあるようです。しかし、どの場合であっても、その最たる目的は「ダムを見ること」にほかなりません。よって「旅行の途中にダムに寄る」、「デートのキメとしてダムに来た」などの場合は、いかに詳しくダムについて調べようと「ダムめぐり」とは認定されません。


2.ダムめぐりの魅力

では、ダムめぐりの楽しさとはいったい何でしょうか?人間が造りだした巨大な建造物の迫力、周りの自然との対比、いろいろあると思いますが、ダムを「めぐる」ことの理由は1つです。それは「同じ形のダムがふたつとしてない」ことに尽きます。ダムにはその建設地点の地形や地盤の強度に合わせた様々な形式があり、また目的すなわち必要な貯水量によって規模もいろいろ、下流へ水を流すための放流設備もいろいろなものがあります。詳しい形式の解説は別の機会にするとして、ここではその事実だけを頭に留めておいてください。


3.ダムの見つけかた

さあ、あなたはダムが見たくなってきました!ちょうど明日は休み、天気も良いようです。それでは初めてのダムめぐりに出かけることにしましょう。・・・と、ここであなたは気付くのです。

「ダムはどこにあるんだろう?」


まずは目的地を決めないことには出発できません。とりあえず手持ちの地図を開いてみます。

3-1.地図から探す


まずは地図を見てダムを探しましょう


どこのダムを見るか特に決めていない場合、地図を開いてダムを探すのがもっとも手っ取り早い方法です。自宅周辺のページを見ながら、大きな湖と「ダム」という表記を見つけましょう。地図に載っているようなダムならある程度の大きさはありますし、それが国道や県道の近くにあるならクルマでたどり着くことも難しくないはず。同じページで他にもダムを見つけてしまったので、大まかなルートも決まりました。これならグルメや温泉などのオプションも簡単に追加できますね。
ちなみに、最近では地図の代わりにカーナビを使ってダムを探し、自動的にルート作成までしてしまうという方法も確立されつつあるようです。大昔の人が地形図とコンパスを頼りに行なっていたダムめぐりも、ついにデジタル時代に突入したわけです。

3-2.ダム年鑑、ダム便覧で探す


左:ダム年鑑、右:ダム便覧


都道府県別や名前でダムを検索したい、用途や詳しい所在地を知りたい、地図に載っていないダムも探したい、などのわがままな要望をかなえるのに最適なツールが、(財)日本ダム協会* が作成している「ダム年鑑」と「ダム便覧」です。「ダム年鑑」とは日本のダムに関するデータなら全て載っていると言っても過言ではない書籍で、形式やスペック、用途といった基本的な情報はもちろん、設計、施工業者、部品の納入業者など、一般人にはまったく必要のない情報までが高密度に掲載されており、一時は「ダム好きのバイブル」とまで形容されました。もっともそんなユーザーは想定されていないため非常に高価で、またB5サイズながら厚さが約10cm、重量約3kgというヘビーなものです。一時代前までは、これとカメラやレンズ、それに地図を入れた重たい鞄を肩から下げ、三脚を持って一般車通行止の場所にある小さなアースダムを目指して炎天下数キロ歩く、といった、ある種苦行とも呼べるようなダムめぐりを行なっている人が何人もいました。
この先人たちの苦労を一気に解消してしまったのが「ダム便覧」です。これはダム協会のホームページ内に作られた「デジタルダム年鑑」とも呼べるもので、位置情報やスペック、トピックスといったダムめぐりに必要な情報だけに特化し、様々なジャンルで検索もできる非常に便利なサイトです。「ダム便覧」の登場によって、肩から重い鞄を下げた古いスタイルのダム探訪者たちは、デジカメとノートパソコンという軽い装備に駆逐されるかたちとなり、今では一部のマニアをのぞいてほとんど姿を消しました。


*(財)日本ダム協会…ダムや堰などに関する調査、研究を行い、ダム施工技術の向上を図るとともに、 ダム等の建設を促進し、国土の保全と国民経済の発展に寄与することを目的として設立された団体。ダム工事管理技術者の資格試験なども行なっている。しかし、ダムファンにとってその実体は未だ謎のままである。



3-3.出かけてから探す

おっちょこちょいなあなたは、家で何も調べずに、気がついたらもうダムめぐりに出かけてしまっていました。地図もダム年鑑も持ってきていません。しかも普段から「迷うこともドライブのうち」と豪語するあなたの車には、カーナビなどという気の利いた装備はありません。さてどうやってダムを探したらよいでしょうか。…と、そこまで短絡的でないにせよ、たまたま旅行や出張に行った先でダムが見たくなったら、知らない土地で地図もなしにダムを見つけることはできるのでしょうか?
これは初心者にはたいへん難しい方法ですが、不可能ではありません。大抵の場合ダムは山間部にありますから、とりあえず車を山の方角に向けて走らせてみます。

川沿いの道を走っていると、見なれない看板が出てきました。


川沿いの道にこんな看板がありました


うっかりすると見過ごしがちな看板ですが、実はこれさえ見つければダムを見つけたも同然なのです。よく見ると「ダム放流による増水に注意」と書かれています。また「この先○キロメートルのところに××ダムがあり...」という記載も見えます。つまり、上流にダムのある河川には大抵この看板が設置されており、この看板の道を遡れば自動的にダムにたどり着いてしまう、という寸法です。また、例えばあなたが上流に大きなダムのある川沿いの道を走っていたとして、この看板を見つけたとします。そのダムまであとどのくらいかと思って見てみると、ダムの名前が目的のダムと違っていることがあります。そうです、大きなダムの下流には地図に載っていない小さなダムが存在していたのです。私はこのパターンで予定外のダムを見つけたことが数回あります。

また、ダムに続く道をよく観察すると、普通の道とはどこか違う、「ダムに続く道」特有のポイントを見つけることができます。以下の写真はとあるダムに続く道ですが、単なる山道とは違うポイントが分かるでしょうか?


単なる山道にしか見えないが…?


上の写真では分かりにくいかも知れませんが「ダムに続く道」のポイント、それは、「へんぴな山道なのに妙に広い(場所がある)」というところです。言葉で表すととても微妙な感じですが、実際に走ってみると分かります。特に小さな川に小規模なダムがある場合。クルマ1台通れるかどうかというような道かと思うと、突然極端に広いカーブが出てきたりする。その後も定期的に出てくる極端に広い離合場所を通り過ぎ、しばらく走るとダムが見えてきます。これは、ダム建設時にたくさんのトラックがこの道を行き来していた名残りと言えるでしょう。ほかにも、法面が固められている場所が多かったり、舗装がコンクリートだったり、妙に轍が大きかったりといったポイントがいくつかあり、実際「ちょっとクサい」と思った道を進むとダムが出てくることがあります(ただし、ダムではなく採石場や産廃処理場だったりすることもある)。

そのほか、「高圧送電線をたどる」とか、「水力発電所から遡る」、「遠くに見える大きな人工法面を目指す」などといった方法でダムを見つけることもできます。

いかがでしょうか。今度の休日に、ちょっと早起きしてダムを見に行きたくなりましたか?どんなダムを見るか、どういうルートでめぐるか、あとはあなた次第です。いろいろな場所に出かけて、ぜひお気に入りのダムを見つけてみてください。